静止した時間の中で。

暇つぶしに本屋でも行こうと出掛けたら途中で友人と偶然出会った。
半年ほど前に会ってそれきりだったのでなかなか嬉しい偶然である。
聞けば今から地元の歴史博物館へ行くと言う。
別に他にやることも無いので一緒に行く事にした。


友人は2浪しているので現在はまだ大学生。
専攻は歴史とかそういう類のものでバリバリ理系の情報学科である自分とかなりタイプが違っている。
今から向かう歴史博物館もゼミで地元の歴史、特に交通網と都市の興隆の関係について発表する為とのことだった。
折角なので色々と地元の歴史について聞いてみると自分の知らない事実が思った以上にあって驚いた。
特に地元の数少ない有名人である某大名が実際は大してこの地に留まっていなかったというのは衝撃的であった。
では何故に有名なのかといえば一つには宗教団体の暗躍だそうでもう一つはロマンだそうな。
前者の印象が強すぎてロマンという言葉がそれこそ宗教団体のトラップなんじゃないかと思ってしまう。


歴史博物館では友人からまた色々と聞かされながら人物画や古地図などを観覧。
しかしここで一番驚いたのは展示物ではなく、ミミズののた打ち回ったような字で書かれた古文書を辞書も無しに読む友人自身であった。
今度是非とも家にきて自分で書いたのに読めなくなってしまった手記を解読してもらいたいところだ。
その後は甲冑の裏の作りや物品の展示の仕方等、そもそもの趣旨と違うことを考えながらぼんやりと眺めていた。


博物館から出た後は一緒に食事をとることになった。
自分はあまり外食をしないので店の選択は完全に友人任せである。
地元の歴史も知らなければ気楽に入れる店も無いとは本当に情けない限りだ。
ベクトルの違いといってしまえばそうなのだがそもそものマグニチュードで負けているのは確実だろう。


お腹を満たした後は特に何も無かったのでぶらぶらと歩いた。
一応二人とも帰るつもりではあったのだろうが特にそういう取り決めも無いまま歩いていた。
そして友人と昼に出会った地点まで来た時、突然そのままサヨウナラと相成った。
偶然に出会ったのだから別れも突然に迎えた方が綺麗だろうという理由からだ。
本屋に少し立ち寄ってから再び友人の姿を探したが既に何処にも見えなくなっていた。
折角予定調和的かつ偶然に会えるチャンスだったのに惜しいな。